『経験・言葉・虚構』(11)

私の友人は十何人か何十人か位の人口しかないその島で、
おじいさんにその島に伝わる昔からの民話を色々聞いてたんですね。
でテープレコーダーに録ったりなんかして、
言語学者ですから色々別の種類の研究、分析をやってたんだと思うんです。

それでもう最後だと思って
今日これでお別れするというんで海岸で別れて、
するとそのおじいさんが別れていったんですが、
汗ダクダクになって帰ってきてですね、
「家帰って戸を開けたらこれくらいの長い虫がいました」
というんですね。

でその言語学者夫婦は、
つまり今おじいさんが家へ帰って戸を開けたら、
南方には木の倒れたあとヤスデという長いムカデの親玉みたいな虫がいますけども、
それが水屋かどっかに入り込んでいたのを、
それを知らせにきたんじゃないかと思って、
「あ、そう」と言ったら、
よくよく聞いてみると違うんですね。
それが民話なんです。
それだけきりの民話なんですね。

【 家帰って戸を開けたらこれくらいの虫がいました 】

たったそれだけきりなんです。

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