『経験・言葉・虚構』(14)

文学が理想とするところは色々あって、
単純さを理想とする、
複雑さを理想とする、
繊細さを理想とする、
剛健さを理想とする、
色々ありますけれども、
おそらく百人の作家がいれば
百の理想があるんだろうと思いますけれども。

もしこの民話をその島の子供が、
子供の時から聞かされて育って、
そうゆう物の考え方、
感じ方というのが、
私には到底掴みようもないんですけど、
それが身についていて、
その民話を、
「太郎ちゃんいい子だからお話聞かせてあげるからねんねするのよ、
 家帰って戸を開けたらこれくらいの虫がいました」
せいぜいついている注釈で、
こんなんでもない、
こんなんでもない、
このくらいだった。
と言ったというんですけどね、
おじいさんが。
これは本望に対する注くらいのところで
あまり意味がない。

それを喜び楽しみ、
それで心が満たされるというんなら、
それでいいんであって、
これはおそらく文学の理想ではあるまいか、
という風に私は考えるんです。
到底私にはそうゆうことは考えようにも考えつきようがない。

0 件のコメント: