『経験・言葉・虚構』(4)

私は子供のときに、
14、5歳の頃ですけれども、
戦争が終わって、
野坂昭如が焼け跡、闇市と叫びまくっているあの時代のことなんですが、
食うに困って色んなことをして暮らしてたんですけれども、
めったやたらに本ばっかり読んでいたんです。

パンを焼きながら本を読んで、
リンカーンのまねごとのような生活をしたんですけれども、
リンカーンほど意志が強くなかったから、
パン食ってオーブンにあたるとあたたかくなって、
寝てばっかりだったんですけれども、
そのときも
自分が神経がそよいで、
朝白と考えたことを一時間後には黒と考えてるし、
それからやたらに本を読むんですが、
どれもこれもみんな名作傑作で、
打撃を受けるばかりでどうしようもない。

それから自分がかわりやすくて捉えることができないんですが、
カゲロウみたいなものなんですけれども、
同時に一切の事物がカゲロウみたいに感じられてきて、
絶対にさびない、
指紋がつかない、
純粋で輝いている、
そして動かない、
そうゆう絶対というふうなものはないんだろうか、
という欲求に取り憑かれたことがあるんですね。

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