『経験・言葉・虚構』(17)

それで私は非常に苦いキズをうける、
キズをうけると人間はそれを克服しなければならないんで、
勝手な理屈を色々考えだすんです。
しかしどおしても私の勘に過ちはないと私は思う、
ここが出発点で、
彼女は私を見ていなかった、
関心が私になかった。

恋というものは最初の一瞥で
大体のところの本質は決まるような気がするんで、
何度もそれ以前に食事をしていて
わかっていなければいけないのに、
未練があって、
あるいはこちらに過剰なものがあったために、
最初の知性的な認識を踏み外してしまって、
どうも私のうぬぼれか間違っていたと。

それから彼女は私を見ていなかったけれど、
そうするとあれはいったい何を見ていたんだろうとか、
しかし恋は押しの一手ということあるから、
知らぬふりしてもう一度再三攻撃やるか、
203高地という例もある、
などと考えたりもするし、
いや年甲斐もないとささやく声にも耳を傾けたり、
とつおいつ迷う。

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