『経験・言葉・虚構』(20)

それで人類は意識の内と外にある
自分の心と体の内と外にある世界を克服すると称して、
そうしなければ生きてこれなかったから、
それで無数の言葉を編み出してきたわけですね。
それで現実を覆ってきたわけです。
それで克服し、
今度は克服しすぎて、
現代にいたっては言葉の数が多くなりすぎて、
その数の大きさ、広さ、重さ、複雑さのために、
人類はかえってよろめいてですね、
本体を掴むことが今出来なくなってきている。

つまり石器時代にはライオンという言葉がなくて、
我々の髭もじゃの先祖が苦しみ抜いたんですけれども、
そして最初に誰がこのライオンという言葉を発明したのかわかりませんが、
ものすごい男だったと思うんですね。

それからライオンは一例のすぎませんけれども、
もっと恐ろしいこと、
強大な、強烈なことを発明した男は、
「夜」という言葉と、
「ひ」?という言葉を発明した男ね、
これが人類の最大の脅威だったと思うんですけど、
少なくとも夜の一部分、
あるいは夜の本質の一部分を、
夜という言葉をつくることで我々の中へ獲得してしまった。
それで夜に立ち向かう力を与えてくれた。
その力が幻覚であったか、
リアリズムであったかということは、
今はもう議論できない。
いずれにしてもそうゆうことをした。
だから「夜」という言葉と「ひ」?という言葉を発明した男は、
たいへんな男だったと思うんです。
おそらく一人ではなくて、
何千年とかかって苦しみ抜いてつくったんだろうと思うんです。

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