こないだ北海道へ行きまして、
2月の末ですけども、
知床半島へ行って羅臼という町がありますけれども、
流氷を見たくていったんですけども、
北海道は何遍となく行ってるんですが、
流氷を見るのは私初めてなんですが、
これがこの海を埋めてるんですね。
それであそこの流氷は氷原になって、
氷の原になって、
沖の彼方まで広がっていて、
国後島まで歩いて行けるんじゃないかという感じがする。
だけども四畳半一つぐらいの部屋、
あるいはちょっとした掘建て小屋くらいもある大きなのがですね、
一個づつバラバラなんですってねあれは。
それで塊と塊の間に海の水が入ってるんで、
それが潤滑油の役をするんで、
その海水が凍らない限り、
氷の塊はひっつくことがないというんです。
そのうちに猛吹雪になってきまして、
二日か三日ほどその羅臼の町に閉じ込められて動けなくなったんですが、
海が流氷をのせたままうねるんですね。
そうすると突堤よりも海面が高くなって、
今にもこっちにおしかけてくる。
流氷と流氷が喧嘩を始める。
そうすると下からこう迫り上げられてきてはみ出した流氷はどうなるかというと、
突堤の上へ這い上がってくるんですね。
這い上がってきてそこへドタッと挫折して、
「孤独だ」と叫んで居座ってしまうのもいるし、
「なにを!」といってこっち港へドドドーンっとなだれ込んでくるのもいる。
その流氷の戦争を見ている。
『経験・言葉・虚構』(25)
ラベル:
『経験・言葉・虚構』,
開高健
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