『経験・言葉・虚構』(31)

私は30歳になった時から放浪とゆうか、
あっちゃこっちゃ飛び歩くことを始めて、
十年間ほっつき歩いたわけです。
日本国内もほっつきましたけども。
それでルポを随分書いて、
まぁ早くいえば浪費をしていたんですけれど、
十年さまよい歩くとかなりのものがたまってくるんで、
それを今後ぼつぼつ瓶詰めに‥瓶詰めっていうのはおかしいな、
文字にかえる努力をして小説を書いていこうかと思うんですが、
何と言いますか、
小説とゆうものも非常に書きにくいもんだということがわかってきて。

私はまぁ自分で言うのは変なんですが、
人生をちょっと焦りすぎて早熟で、
18歳の時に所帯を持ちまして、
20歳で子供を作りましてですね、
今41ですけども子供が二十歳で、
45くらいで私はおじいさんになれるんですが、
65くらいになると曾じいさんになる。
今の子も肉体的には早熟ですから、
私の娘が私と同じようなことをやると‥するとですね、
45のおじいさんというのが発生するんですけれども、
「1ダースくらいつくってやろうか」
なんてことを娘に言われるとゾッとするんですけれども。

私には独身生活というのがなかったんですね。
でその反動がきたんです。
この十年間に。
ものすごい反動、
つぶさには語りませんけれども、
止めても止まらない。
もうしょうがないから反動のままで、
振り子のままで揺れようという決心をしたことがありまして、
揺れるままに揺れてたんですけれども。
家庭で生活出来なくなってしまったんですね。
それで去年も半年ぐらい家を外にして、
あっちの旅館こっちのクラブと泊まり歩いて、
今年もそれなんです。
で独身生活というのはこんなに楽しいもんかというのがやっとわかったんですね。
それで出版社の人がやって来まして、
「第二の青春ですな」なんてなこと言うから、
「冗談じゃないよ俺はこれが第一の青春なんで40になって第一の青春やってるんですよ」
と言うんですが、みんな
「ハッハッハ、御身大切に」なんてなことを言うんですけども。
世間の若者が侘しいような顔をして、
駅前の「キクヤ」とゆう風な食堂で飯を食ってるんですが、
鯵のフライにお新香に冷えたご飯食べてもう本当に辛そうな侘しい顔をしてるんですが、
私一人は生き生きしている。
何でこうゆうことを知らなかったんでろうかとゆうことでですね、
生きていてよかったという感じになってるんですけれども。

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