『地球を歩く』(13)

それで魚釣りをやるんですが、
日本国内の釣りはみんなが書いてるし、
みんなが知ってるから、
私も子供の時から馴染んでるので、
あらためて私が鮎釣りをしなくてもいいんじゃないかと、
それよりもなかなか入っていけないような所へ行って、
あるいはもう絶滅しかかってるとゆう風な魚の前へ一歩出て、
その魚の顔を見て写真撮ってと、
ゆう風なことでもした方がいいんじゃないかと、
こう思ってアマゾンへ行ったり、
アラスカ行ったり、
カナダの森林に潜り込んだりとゆう風なことをやってるんです。
それで色んな国を渡り歩いたんですが、
ここでもまたですね、
色んなことを感じさせられる。

で誰も来ない所へ入って行きたい。
釣り師の心理は色々ありますけれども、
例えば私は山釣り師ですから、
川釣り、山釣りしかしない。
鮭、鱒、岩魚類が好きなんですけれども、
だからこの北海道でも釧路中心に随分通うたことあるんですが、
誰も来ない所、入ってない所、
そうゆう所へ行って一人きりになりたい。
まぁ強いて言えば、
文明の汚濁から逃げるんだ、
女房や家庭や職業やうっとうしいもんから全部逃げるんだ、
忘れるんだ、
偉大なる逃走を試みるんだ、
とゆう風なことはちょっと大げさですかね、
万事大げさなのは釣り師の癖ですけれども。

で誰も来ない所、
入ったことがない、
靴跡もない、
指紋もついてない所へ入って行く、
それで大きな魚を一匹釣り上げると、
妙な心理がここで働いて、
ワクワクドキドキして針を外すのに手が震えるんですが、
ふっと後ろを振り返って、
誰か見ててくれへんかったかなぁ、
とこうゆう倒錯心理があるんですけれども。
これがなかなか克服出来ないんですね。
猫みたいなものです。
猫はネズミや何かスズメを捕って必ず持って帰ってきますけど、
食べるのでもない、
主人に見せたくて持って帰ってきて、
放り出したまんまでどっか遊びにいきますけど、
あれに似た心理がある。
誰か見てへんかったかいなぁと。
で見てなかったら何かちょっとつまんないような感じがする。
そうゆう心理があるんですが。

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