『地球を歩く』(22)

去年私はオンタリオ湖というカナダの大きな湖がありますが、
その北部が北極圏まで大森林地帯になっていて、
これまた飛行機でないと入れない、
そこの湖の岸辺に小屋があって、
インディアンの、
これはインディオじゃなくてインディアンですけども、
オジブウェイというインディアンですが、
このインディアンのハンターのおじいさんと一緒に
10日ほど暮らしたことがあるんですけども。
このおじいさんがよたよたと英語で、
抜けた歯で説明してくれるんですけども、
我々は昔は風呂へ入る習慣がなかった。
それには理由があった。
ここら辺はいっぱい蚊がいよる。
蚊は人間の垢の匂いを嫌うんだ。
風呂へ入らなければ蚊は来ないんだ。
我々が風呂に入らなかったのは蚊をよけるためなんだ。
ところが今インディアンのリザベーション、
居留地ですね、
これになってみんな政府から補償金もらって
暖房のついた家に暮らすようになったけれども、
風呂に入って石鹸を使うようになった。
だから蚊がインディアンを食うようになりよった。
インディアンの若者は、
魚も釣れず、
獣も捕れず、
あれはダメだ。
といって都会へ出ていってもダメだ。
「ならじいさんインディアンの若者は何してるんですか」と聞いたら、
「家のなかに座ってチューインガムを噛んでおる」と苦々しくも
こう言っておりましたけれども、
インディアンが蚊に食われる時代なんですね。
別に構わないんですけれども、
インディアンが蚊に食われたって構いませんけれども、
しかし魚や獣についての知識がゼロになってしまってダメだ、
とこう嘆いておりましたけど。
これまた文明の爛熟ですなぁ。
あっち行ってもこっち行っても文明なんです。

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