『地球を歩く』(25)

そこで私は行きませんでしたけれども、
ブラジルのアマゾン開発大臣とゆうようなところへ行って、
おそるおそるびくびくもので、
「セニョール、世界の酸素と水のためにアマゾンを乱伐するのを
 ちょっと抑制して、コントロールしていただけませんかなぁ、
 アマゾンで酸素が発生しなくなると、東京へも酸素が流れて来ないんで、
 地球は回転してるし、空気は回転してるし、おたくが砂漠をつくると、
 こっちが窒息するという時代なんですが…」とこうおずおず申し上げる。
すると向こうは丁寧に南米風にですね、
「わかりました。おっしゃる通りです。コンプレンド(comprendo)わかった」と言う。
でやれやれこれで守ってもらえたかと思うと、
ポッと顔をあげてですね、
丁寧な口調で、
「ところで一つお尋ねしたいんですけれども」と言うので、
「何でもどうぞ」と言うと、
「日本とかアメリカとかヨーロッパとかゆう文明先進国なるものは、
 それぞれの祖国の自然をなにがしか損なうことで、
 近代文明をつくってきたんじゃごわせんか」と言うんで、
「その通りだ」とだんだんだんだんこっちはうなだれていくわけです。
山を削り、木を切り倒ししてダムを造り、
それから森を切り倒してレールを敷き、鉄道を敷き、
とこう色々数え上げられると、
「その通り、その通りです」だんだんうなだれていくわけです。
「そうするとあなた方だけは、文明生活をしていてよろしい。
 しかし我々は世界の酸素と水とを守るために、
 いつまでもふんどし一本のインディオ並みのロウソクもない
 生活をしろとおっしゃるんですか」とだんだん向こうが声が高くなってくる。
そうすると皆さんならどう答えますか、
これはもう至るところでこの答えにぶつかるんです。
彼らがそれを口実にしてるということはわかりますが、
その口実には論拠がある。
それで結局のところはですね、
「わかりました、すんません、あなた方も文明…
 そのインディオ並みの生活をせんと、電灯のつく、
 クーラーのある、コカコーラも飲める、そうゆう生活をして下さい」
そうすると、
「ジャングル切り開いてよろしいですな」と向こうは言うんで、
おびえながら、
「ほどほどにしといて下さい」
ほどほどにという言葉しか出てきようがないんですね、
私の考えたところ。

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